福島県奥会津。ある村の廃校に、その小学校の元校長先生が1人で暮らしていた。校長は、もう使われることのないこの校舎を修繕しながら、「消えゆく我が舎」をいとおしむように静かに日々を送っていた。しかし、いよいよその校舎も解体されることが決まる。 ある日、かつてこの小学校で学んだ男・野田が博物館の職員として、校舎に保管されていた縄文遺跡出土品の整理にやって来た。実は、野田には誰にも明かせない「暗い過去」があった。それは閉校式に埋めた「タイムカプセル」にまつわるもの。しかし、校長や恩師であった綾子先生、その娘リツコと接していくうちに、小学校での懐かしい記憶が徐々に回復されていく。そんな中、村の老人施設にいた綾子先生が、記憶障害も進み身体が弱ってきたため、隣町の大きな病院に移ることになる。娘のリツコに付き添われて村を離れる道すがら、綾子先生は学校に立ち寄る。綾子先生は校庭を見渡し、小さく呟いた。「あの子達、どこへ行ったんでしょうねぇ」。その時・・・・
野田  : 西島秀俊
リツコ  : 倍賞千恵子
校長先生  : 坂本長利
綾子先生  : 風見章子    ほか、守田比呂也、水橋研二、塩野谷正幸、小松政夫らが出演
福島で撮るということ


現代の社会は、弱いものを切り捨てる時代。
先達を敬わず、地方を切り捨て、過去から何も学ばない時代。
急速なデジタル化と、それに伴って情報だけが溢れる世界。
その一方で、人々は益々孤独になっている感が拭えません。

インターネットによって、世界中の顔の見えない相手とは容易に繋がれるのに、
手で触られる身近なものとは繋がれなくなってきている昨今。

福島の歴史を知れば知るほど、常に時代の波に翻弄されながらも、
間違っていることに対しては、圧力に屈せず断固として、
否の声を挙げ続けてきた土地柄だと知りました。
歴史と共に生き、土地の記憶を大切に想い、寄り添ってきた人々。
その福島の地から、この「ハーメルン」を発信したいと強く願うようになったのです。

この映画は2009年より、四季折々の福島の風景を撮影してきました。
しかし、昨年秋に予定していたメイン部分の撮影が、
天候不順のため2011年5月へ延期になっておりました。

その準備中の3月、あの震災が起きました。
当初、この映画は“喪失の物語”でしたが、新たに“希望”を加えたものへと書き直しました。
しかし、“上辺だけの希望”や“口先だけの希望”になってしまわぬように注意しながら、
改訂にあたりました。

この映画には、重要なアイテムとして“大量の折り鶴”が登場します。
その折り鶴を、新聞やネットで募ったところ、福島県内はもとより全国から、
更には海外からも寄せられ、当初の予定を遙かに凌ぐ8万羽が集まりました。
この折り鶴が、福島の地に、そして世界中のスクリーンに舞う日を目指し、
制作に励んで行こうと、誓いを新たにしております。
映画監督  坪川 拓史
坪川拓史 Tsubokawa Takushi
1972 年、北海道生まれ。映画監督・俳優・アコーディオン奏者。
2005年、長編第一作『美式天然』が第23回トリノ国際映画祭で長編部門グランプリと最優秀観客賞をW受賞。
2007年、長編第二作『アリア』がフランスKINOTAYO映画祭で最優秀観客賞受賞。ユーラシア国際映画祭・中央アジア映画
連盟最優秀作品選出。人種や年齢を問わず各国で絶賛され「三大映画祭に最も近い日本人監督のひとり」と評されている。
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